しつもん … 「行く」の助詞として、「京都へ行く」は正しいが、「京都に行く」は誤りか。「喫茶店に入る」は正しく、「喫茶店へ入る」は誤りか。(松本)
アドバイス …
「行く」の助詞に関して、「へ」「に」の使い方が分かりにくいとの疑問を抱く方が多いようです。初級の場合「行く」は、まず方向を示す「へ」で統一して教えるといいです。この時点で教師は「どこに行きますか」などとは言わないように気をつけてください。次に目的を示す「に」(みんなの日本語の場合13課)を教えてから整理します。つまり「明日、梅田へ映画を見に行きます」のような例文ですね。ここで方向と目的がはっきりするとおもいます。「喫茶店に行きます」と普段何気なく言ってしまうのは、そこへコーヒーを飲みに行くという目的部分が略された文だと理解すればいいでしょう。
さて学習者が助詞を使わずに話す場合ですが、普段日本人の夫婦などの会話は確かに助詞なしで話しています。 「晩御飯なに?」「あのもらった魚食べる?」こんな感じです。でもこれは助詞を知っていて省略しているので、問題ないのです。それでも実際は略せない助詞は上手に略さず使っています。このへんのことは最近のアニメのセリフなどを分析すると分かります。日本語未習者の場合は必ず助詞をつけて文章で言わせる練習が必要です。すこしレベルが進んで自他動詞が始まると混乱が出てきます。また受授動詞(やりもらい)のあたりでも混乱が始まるので、やはり助詞付きで教えるように心がけて下さい。練習問題で助詞の穴埋めがよくありますが、文章で覚えている学習者は無理なくこなせます。一方、後付けで助詞だけ勉強した人は何度やっても同じミスをしています。
しつもん … 「みんなの日本語」第10課の会話に、「ユニューヤ・ストアはどこですか」とあります。「?にあります(います)」の例としてはどうでしょうか。許容されるとは思いながらお聞きします。(向井)
アドバイス …
この章は存在や所在の「あります」を教えるところで、ドコソコにナニナニがあります。という調子で主語に応じて「います」あるいは「あります」をつかったりしなければならないわけです。
外国人にはここがややこしいところです。港の岸壁から下に見える(回遊する)魚は「います」を使い、スーパーで購入してきた(死んでいる)魚にはいま「冷蔵庫にあります」と使い分ける必要があるわけです。
閑話休題、初級のQ&Aは基本的には同じ形で、が原則です。すなわち、「?デスカ」で聞かれたら「?デス」で答える、「?マス」できかれたら「?マス」でこたえるというわけです。ですから教師も「?ですか」ときかれたら「?です」 で答えるようにして下さい。
この10課の会話をよく読むと、存在の「あります」と所有の「あります」(第9課)が混在していることに気がつきます。このへんは教師側が整理して教えないと学習者は混乱するばかりです。
しつもん … 学習者の「?んです」という表現が気になります。
例:「?を見て驚きました」「?してうれしかったです」というべきところを「?を見て驚いたんです」「?してうれしかったんです」と表現します。違和感のある表現ですが、どう説明すればいいでしょうか。(N)
アドバイス …
「?んです」という表現は「みんなの日本語」26課で登場します。日本人は何気なく使い分けていますが、 外国人には難しい用法のひとつです。しかし、なんでもかんでも「?んです」をつけるとこれも妙な文になってきます。例えば、
T「明日何をしますか?」
S「午後なんばへいきます。ともだちと映画をみます。よるうめだでごはんをたべます。」
こういう報告書のような文をSはよくつくります。間違ってはいませんが、違和感が残ります。
ところがこの「?んです」をつかうと文章における話者自身の責任感がかなり消え、「この話題について みなさん もう自由に話してくださいょ」というようなモードになります。
これがこの「?んです」の強みです。会話だとこんなかんじでしょうか。
S「明日 なんばへいくんです…」
T「へぇ だれと?」「またいくの?」「買い物?」
S「友だちと映画を見るんですょ…」
T「あっ、新作のバットマンですか?」「へぇ 例のアレかな?」
S「で、そのあと梅田でご飯たべるんです」
T「梅田ならおすすめがありますよ」
こんなふうな発展した会話になります。「?んです」を語尾につけるだけで回りの人は話しやすくなります。したがってこれは会話における誘い水、一種の疑問文のような役割も果たしているのではないでしょうか。
S「で、そのあと梅田でご飯たべるんです」
(どこかいいところ知らない?)っというニュアンスまでふくまれているというのはいいすぎでしょうか?
しつもん … 学習者との共通語として、英語その他母国語を使うことはいいですか。特に問題はないでしょうか。(Mさんほか)
アドバイス …
英語や母国語の使用に関する質問がきています。学習者との共通語を持つことは、つぎの2つの意味で大切です。まずゼロ初級の学習者にとって、特にクラスメートがいないicaのような個人授業の場合、よくわからなかった部分を先生にしか質問できない弱みがあります。そのときに先生が学習者と共通語をもっていれば大きな励みになります。つぎにicaで教える日本語教育を考えた場合、icaの日本語教育は日本語授業のみならず、地域社会で生活しやすい環境を整える手助けという視点も必要になります。
とはいえ、共通語として新たに外国語をゼロから勉強するほどのこともありません。学習者のそれぞれの国の挨拶、特に「誉める表現」や「お礼の言葉」ぐらいは言えるようにしておきましょう。こうした努力が学習者の動機付けを高める遠因にもなります。ではまず手はじめに「ありがとう」を8ヶ国語で言えるようにしてみませんか?
中島透さんは関西国際センターの日本語教育専門員。
第5回ica日本語指導者養成講座でご指導いただきました。